よく晴れたある日、私はストーブの前で本を読んでいた。こまは玩具で遊んでいて、ナイトはお気に入りの特大クッションの上でぬくぬくと昼寝。夫は外出して留守だった。


部屋の奥の、クローゼットの入り口扉に立てかけてあったタンボールが、これといった理由もなく何かの拍子にパタンと倒れた。もともと不安定な状態にあったのかもしれない。だけど、誰もいるはずのない方向から聞こえてきた思いがけない音に、寝ていたはずのナイトがぴく、と起き上がった。そして倒れたダンボールの折り曲げた端がまだちょっと揺れているのを凝視している。誰かいるの?何で倒れたの?ヘンだよおかしいよ、どうしてアレがあんな風になってるの?と、吹き出しをつけたい位にじーっと様子をうかがっている。その後姿があんまりにも無防備で可愛すぎたので、私は出来心を抑えることができなかった。


背後から、手近にあった玩具をぽーんと、ナイトが凝視しているあたりに放ってみたんである。


途端にナイトは、クッションの上で10センチ位飛び上がったように見えた。いや、多分ホントに飛び上がっていただろう。そして前足をいつもの3倍の速さで、後ろ足は半分の速さ(腰を抜かしたんだね)で必死に回転させながら、カシャカシャと床を引っかいて台所方面にすっ飛んで行ってしまった。人間ソックリに「あわわわわわわわわ」と叫びながら。


ちょっときついイタズラだったようだ。だけど慌ててナイトを呼び寄せて抱っこしてやりながらもどうしても笑いが止まらなかった。だって「あわわわわ」って。今までも「おあーあーん(おかーさーん)」とか「あーむあむ」とか、犬らしからぬ喋りかたをしてきたヤツだけど、ビックリした時までヘンテコな声で喋るとは思わなかったよ。


ちなみに一連の騒ぎの間も、こまは全く動じずに一人遊び続けていた。うーん、大物っぽいね、こま兄ちゃん。