東京ブロック遠征記 風がコマンドを運んだ日の巻

翌朝は予報どおり、律儀に雨が降っていた。しかもかなり気合の入った雨、ダメ押しとばかりに風まで吹いている。


だけどまぁ、予報どおりなら天気は回復に向かうはず。もしかしたら今をピークに徐々に良くなっていくところかもしれない。そんな期待というか祈りが通じたのか、会場に到着した時にはとりあえず雨はやんでいた。ただし風はかなり強い。先月遠征した埼玉ブロックでも風が強かったがその比ではない。

屋根が歪んで、左から風が吹いているのがお分かりいただけるだろうか。
かなり手こずりつつも何とかお借りしたシェードを設営したが、風はますます強くなるばかり。椅子が転げクレートが飛ばされるほど、といえばお分かりいただけるだろうか。ペグを二重に打ち、ロープも二重に張って(うまい具合に予備の紐があったのだ)も、今にも飛ばされそうにシェードが揺れる。次々と会場にやってくるグループも、一応はタープの設営を試みるが途中で危険と判断してほとんどが撤収していた。私が立てたシェードも、横殴りの雨が吹き込めば為すすべはないし、下手したら足がねじ切れるかもしれない。お借りしたものを壊す訳にはいかないので、立てた直後に撤収することにした。

テントの設営を諦める人とか、ロープを車にくくりつけて固定するグループとか。
さて受付が始まり、こまとナイトの順番を確認してみると、こまは18頭中の2番目、ナイトは同じく18頭中の9番目であった。えー、もしかしたらこれからもっと天気が良くなるかもしれないってのに、開始早々の出陳なんて。しかも練習だってできないじゃないか。くそー、ついてないな。と、その時はそう思ったんだけど。


いざ競技が開始になったのを見計らったように、ボツボツと大粒の雨が降り出した。順番待ちをしているこまのコートがみるみるうちに濡れていく。やばい、十分にテンションを上げる事すらできてないってのに、雨なんかに降られた日にゃもう日本海溝よりも深く落ち込んでしまうに違いない。焦る気持ちとは裏腹に、風まで容赦なく吹きまくる。リンクを仕切る横断幕が煽られてバタバタと大きな音をたて、こまがビックリしたようにふりかえる。あーもうあーもう、風よ静まれ雨よやめ!だけど祈りは通じない。そしてこまの番。

バタバタバター!
人も犬も押し戻される程の風が吹く。脚側でのこまの速度は遅れがち。コマンドが風にかき消され、今まで失敗したことがない「遠隔・定座からの伏臥」で屈辱の二度がけ。のみならず、行進中の伏臥・定座でも失敗。これは私が普通の大きさの声で指示を出したから、風に負けたんだと思う。そして段々に険しくなっていく私の雰囲気が、ますますこまのテンションに錘をつけていく。あぁ、悪循環。立止は素晴らしかったのに。招呼もよかったのに。風でコマンドが通じ難くなるなんて、全く想定してなかったよ。


審査員の先生には「無難に出来てたんだけどねぇ。二度がけがねぇ」とのご指摘を頂いた。いやホントにその通りですと思いながら、今度はナイトの出陳に向けて気持ちを切り替えることにして車に戻った。そのあたりから急に雨足が強くなってきた。強風とあいまってまるで台風並み。いや、それほど大げさな表現じゃないですよ。それまで何とか稍重程度を保ってきたフィールドが、一気に重になる位の勢い。雨が本降りになり始めのうちに競技を終えることが出来たんだから、こまにとっては2番というのはラッキーだった。


そして次はナイト君。練習を重ねた立止はきちんとできるだろうか。脚側で地面をくんくんしたりしないだろうか。不安は多々あるが、とりあえずコマンドをはっきり出すことを意識しよう。そう思ってリンクに向かったところで、ナイトの様子がおかしいことに気が付いた。歩く速度が遅い。そして気のせいか、何となく体を左右に揺らして歩いているように見える。もしかしてびっこ引いてるのか?


だけど、車からリンクに向かう時は遅れがちになるけど、試しに車のほうに向かって歩いてみるとちゃんとついてくるし、体も揺らさずに歩いているように見える。もしかして濡れるのがイヤで仮病使ってるのかなぁ。はっきりしないが、とりあえず競技させてみることにした。


が、やっぱりダメだ。びっこは引いてないが、紐付き脚側が明らかにいつもと違う歩き方。しかも競技の最後の定座を全くしない。これが練習なら、軽く尻を引っぱたいて座らせるところだけど、競技会本番でそれはできない。それに定座をしたがらない様子が、単なるわがままというよりも何かに怯えてしまってできずにいるような感じだった。これ以上はどうしようもない。定座ができなくてはその先の課目は一切できないし、今回は途中棄権することにした。


だけど、車に戻る途中なんかはやっぱりちゃんと歩いてるんだよなぁ。だけど悪天候ぶりはますます酷くなるし、こんな所でムリすることもあるまい。今回は期待できないが、ま、結果発表まで車で寝て待つか。それにつけてもひどい嵐だなぁ。

タープの足元に排水溝を掘ってるところとか。
風がおさまったのは昼頃。さらにしばらく昼寝を堪能し、2時過ぎに雨が止んできたのを見計らってカメラを片手に外に出た。いやー、こりゃ去年の仙台の競技会並みにひどいことになってるなぁ。つくづく、こまの順番が早くてよかった。

リンクはすでに「悪」。
それはそれとして早く結果が知りたいぞ。早く判ればそれだけ早く帰れるんだし。おや、1部(ナイトがエントリーしたクラス)はもう発表されてるじゃないか。どれどれ。

仕方ないよね〜。
あー、最下位。そりゃそうだ、途中棄権だったからなぁ。そうか、あの脚側は8.7点なんだ。かなり悪いなぁ。それより10部(こまのクラス)はまだか。まだかまだかまだかまだか。遅いなー、もう16時だよ。あ、発表だ!

え、93.9ポイント?!4席だ!うっそー、マジですかーーー?!


今までしたことが無いような失敗をしたのにこの席次。2番目という競技順に助けられた面もあるだろう。が、実際のところはどうだったのか。風があんなに酷くなければ、前日に買ったばかりの三脚でビデオ撮影するつもりだったんだけどなぁ。くっそー、残念だったなぁ。いや、素直に嬉しいぞ。だって、先月は散々な結果だったんだから。よくがんばってくれたなぁ、こまちゃん。お陰で今回も表彰台にのぼれたよ。昨日、可愛いチョークを買っておいてよかったね〜。


そんな訳で、悪天候に邪魔されたんだか助けられたんだか、思いがけずに良い成績を上げることができて、半分ホクホク気分で帰宅の途につくことが出来た。残り半分はもちろんナイト君の棄権が気になっている。あの歩き方や、座らなかったのは何故なのか。これにはっきりした理由があったことを、この時の私はまだ知るよしもなかったのであった。